ジャパンプロデューサーインタビュー
Vol.164 [首長] 藤井 信吾 茨城県取手市長 「怯まず、恐れず、自分の道を拓いてください」
市長
茨城県取手市長 藤井 信吾
選挙区 茨城県取手市
市長になろうときっかけはなんですか?
大学で政治学や行政学などを学んでいたこともあり、もともと政治の世界への興味があったのは事実ですが大学卒業後は生命保険会社で20年間働いておりました。その後あることがきっかけで10年前の市長選挙に出馬しようと考え、会社を退職し10年前の市長選挙に出馬しました。その時は落選してしまったのですが、その後二回目の挑戦で市長としての役目をいただくことができました。
そもそも、私が思っていたことは「人間はみんな、意味のある選択をしたいと思っている。けれども現代の多くの人々は、量的に拡大してきた高度経済成長の中で必要とされた分業による最適モデルの中で、会社や組織の求める、最適の部品になるために、身をすり減らしてしまった」ということです。確かにかつては、このようにして企業の利益が上がると、社会へ再配分され福祉が向上するというシステムだったため、その仕組で十分に成り立っていたのだと思います。
ところが現代はもうその当時のような右肩上がりの社会ではなくなってしまいました。人間が主体的なもので、心の充足がないと生きていく意義が求められないのであれば、政治もそういうものを求める段階にきているのではと思うようになったのです。
たくさんの税収を得て、福祉政策で配分するという最も優れていると思われてきた方法ではない、時代の変化の中で求められる市政の形とはどんなものなのか、今までとは異なる新しいモデルを構築して行きたいと思い市政に携わろうと思いました。
ただ、これは市長や市役所の力だけではできないことでもあります。例えば、昨年野田前総理が進めていた消費増税の議論の時もそうですが、今の国民の議論をみていると、「たくさん負担するのはいやだ」「自分が負担するのはいやだと」と限られたパイを誰が取るかの議論ばかりが先行してしまう場合があります。でも、こういった時「もうすこしみんなが知恵を使って歩み寄って、参画して汗をかけば、違う形が見えて来ませんか」と、私は思っています。
現に、今の自治体の形は、何かをする前に仕事を細分化して、その細分化したものに対して競争入札をし、税金から大枚をはたいて外注することでやっと成り立ちます。一方、たとえばこれが自分の子供の学校の最後の発表会であれば、親御さんたちが無償で企画から運営まで、どうやったら我が子の晴れ舞台が一生ものになるか、知恵を絞って積極的に参加して、汗をかいて一生懸命になってやると思います。この姿勢こそが、今後の社会・政治に必要なことだと私は思っています。新しいモデルを構築していく時、もちろん私達も考えますが、「市民の皆さまも一緒に学んでいきましょうよ」と積極的に声をかけて行っています。
市長にとって政治や議員というのはどういうものですか
とかく政治における勝利点はたくさん分配してもらうことであり、だから、政治家はその利益代弁者みたいな立ち位置と思っている人が大勢いるように感じています。
でも、私は違うと思っています。様々な事柄に「意味をもたせる人が政治家」であるべきです。確かに、目先ではいろいろな事柄が動いているのでしょうし、本来の目的からはずれて惰性になっている事柄もあるだろうし、または、今の時代に、様々な事柄にそんな意味をもたせるのかという意見もあるのかもしれません。
ただ、先程もお話したように、私は人間がより意味のある生活をしていると実感するためには「やりがい感」「はりあい」というものが不可欠だと思っていますし、そのためには自分が関わっている事柄の意味付けをしてあげることが必要なことでだと考えていますし、その役割はおそらく「政治」というものが果たすべきだと考えています。
市長の子供の頃のことについて教えて下さい。
私は、中学3年生の時にロサンゼルスの郊外のパサディナというところにホームステイをしていました。そこで大変印象に残っている出来事がひとつあります。
小学校などを見に行くと、「忠誠の誓い」といって国に対する忠誠の誓いを必ずやっているのです。アメリカという国はなんでも自由という雰囲気がありますが、実際はとても幼い頃から国家と言うものを教えているのだなと、素直に驚きました。
だからこそ私は、子どもたちには英語を使っている国々がどういう国でどういう文化があってどういう暮らしがその中にあるのかをきちんと学んでほしいと思っています。
以前の民間企業に努めておられた経験で今の仕事に役にたっていることはなんですか。
自分が20年間民間で勤めている間に感じてきたことは、「人々は問題にぶつかってから“なぜ問題があったのか”を追求することばかりしている。しかし、一人一人がなにかを発見する“生のよろこび”があれば、もっと自分からいろいろなものを求めて行くようになるかもしれない」ということです。
これは政治という分野においては、「もっと主体的・能動的な人々を作っていかなければならない」ということにつながっていると思います。市民による市政への協働参画というのはクレーマーを生む方向に行くものではなくて、「いまは気がついてないけれども、気がついたら身近にこんなに楽しいものがあるのですよ」という発見型で進めていくべきだと私は考えるようになりました。
取手市の魅力を教えてください。
都心への時間がすなわちその土地の値打ちではないと私は考えています。都会のほうばかりを見ていると、一見取手市が不便に見えてしまう人もいるかもしれません。でも、ちょっと周囲に目をむけてみると、都心からこんなに近い距離なのにたくさんの自然と触れ合える土地は多くはありません。私はいま毎朝1時間・7300歩の散歩を毎日しているのですが、自分がいつも散歩をしているところでは渡り鳥が営巣しているのをみられます。 散歩をしている人同士が、そんな渡り鳥を話のネタとして大変和やかな会話をすることもあります。取手市はこの他にも、カイツブリやカワセミなどの鳥も身近なところで見ることが出来る環境なのです。このような周囲の自然などの細かい事柄に気づければ、それは大変幸せなことなのではないかなと私は思います。
ただ、一方でつくばなど周辺に新しいショッピングモールができたりしていて、それぞれの施設にも確かに魅力があります。だから市では多様なニーズに答えられるだけのまちづくりもしなければならないと思っています。モールの話だと一見民業の話に聞こえてしまいますが、必ずしもそうではなくて行政としても何ができるのを考えていかなければならないのです。
結局市政を変えていこうとしたときに、一番大事なことは、単に紙だけみて、経営改善みたいな形で市の業務を効率化していくのではなく、その街々の個性がどこにあるのかを見極めアイデンティティをきちんと確立させていくことなのだと思います。
魅力的なまちづくりに必要なこと、市民の方々に期待することを教えて下さい。
住んでいる人々に取手市を誇りに思ってほしいと思っています。もしかしたら、市民の方々の中には「もう少しお金がたまったら都内に近いところに引っ越そう」と思っていらっしゃるかたもいるかもしれません。残念なことですが、これは仕方のないことです。
でも、縁があってこの取手という街に住んでいるのだから、この地域をもっと面白くするために、何ができるのか、そのために自分は何を関わっていけるのかという部分をもっと考えてほしいと思います。そして、そのためにはやはりこの街に住んでいるということに何かしら自分で意味付けをしてもらわなければならないと思っています。
団塊の世代の高齢化は、一方でパートタイムでしか街に関われなかった人々がフルタイムで街や地域に関わることができるきっかけにもなります。そういったリタイアした人たちが充実した生活を送る一つの手段として、行政の関わりが求められる部分もあるとは思っていますが、ぜひ市民の方々にも「自分なら何ができる」という一人ひとりの魅力の部分をきちんと周囲の方々に発信してほしいと思っています。
この市の抱えている問題について教えて下さい。
この市も他の市同様に高齢化が進んでいますが、一番の問題は2025年度における75歳以上のウエイトが非常に高くなるということです。これは具体的な数字にすると、後期高齢者が10000人増える計算になります。なので、健康増進策が欠かせないと思っております。今までまちづくりにおいては、いかに歩かないような街にすべきかを考えていましたが、今後はある程度の運動量を担保するためにも、歩きやすいまちづくりにかえていかなければならないと考えています。というのも健康で他人のためにはたらけるひとを増やすことこそ、この高齢社会への回答の一つだと考えているからです。
行政というのは制度の中で制度を適正に運営するというのが従来までの考え方でしたが、現在はよりパーソナルな部分に関わっていかなければならないと思っています。なので、私は「ウェルネス」という言葉をキーワードに個々人の運動量などにも配慮したまちづくりをしていければと思っております。
また取手市は昭和44年に都市計画を決定した当時から新しい大きな都市計画をしていない街です。その一方で市街化調整区域の大半は良質な田んぼなので使える土地が少ない地域でした。ここは大きな課題だったので、市街化区域の調整など、従来まで踏み込まなかった部分まで踏み込んで市の都市化を進めて行きたいと考えています。
ただ、先程もお話したように、まちづくりをするにあたって、ただ駅に近いだけの商業施設ばかりではだめだと考えていて、商業の促進はしていくが、その他にも健康・医療・福祉・環境の4本柱でまちづくりをしていきたい、先ほどのお話で言えば街の駅前は健康を増進していくための空間にしていければと思っております。
最後に若者へのメッセージを教えて下さい。
日本という国は過度な同調圧力の生まれる国だと私は思っています。でも現実には他人は他人で違うのはあたりまえ、だからこそ「自分は自分のやるべきことをやる」という姿勢であるべきなのです。ところが、こういう絶対軸がないから相対軸にばかり気にかけることになってしまう。さらに加えて今の若い子たちは、承認要求が強すぎる。だから、自分の目的が低くなり、周りに合わせる、周りと同じことをする人ばかりが増えてしまっているように感じます。
でも現実には、どんな選択肢を選んでも道は拓けるものです。自分が何をしたいのかわからないという人がいますが、本当にわかっているひとなんてほとんどいない。だからこそ、まずは「始めてみてください」と思います。
やり方がわからないのなら、周囲を見渡してみてください。もし、ただ何かを上手にこなしたいだけなら、周囲の上手にこなしている人を見ていれば自ずと上手にこなすには何をすれば良いのかはわかると思います。
今の日本の就業モデルは、職に就くのではなく、会社に就く人がほとんどになってしまいました。そういういまだからこそ、きちんと経験を積んであなたは何者ですか?という根本の問にきちんと答えを持てるようにしてほしいと思います。
【出身】:鹿児島県鹿児島市
【略歴】:東京大学法学部政治学科卒業後、第一生命保険相互会社勤務、
平成19年4月27日に市長就任、現在2期目。
【趣味】:アコーディオン演奏