ジャパンプロデューサーインタビュー

Vol.243 [首長] 木幡浩 福島県福島市長 「若者が行き交う県都福島へ」JAPAN PRODUCER INTERVIEW

JAPAN PRODUCER INTERVIEW vol.243

“若者が行き交う県都福島へ”
福島市長 木幡浩

福島県の県庁所在地として、 賑わいを誇る福島市。 福島駅前の再開発が進む今、 若者を巻き込むまちづくりに関して、 木幡市長にお話を伺いました!

【理想の「県都 福島」について】

— 市長がお考えになる理想の福島市と、実現のために解決すべき問題をお聞かせください。

木幡市長:

福島市の中心市街地は、福島市の中心というだけでなく、県北地方の広域的な定住促進と活性化、県内外との交流の拠点だと考えています。そのため、他の都市を見ても分かる通り、中心市街地の利便性を向上させ、大病院や銀行などの都市機能を集積し、賑わいを創出する必要があります。そうして市内に常時、人々が行き交う状態を実現し、最終的には市に定住・移住する人々を増やしていく。こうした意識で取り組む様々な計画をもって、「県都福島」を実現させようと考えています。 解決すべき大きな問題は、中心市街地の人口が減少していることです。その要因の一つは、インタビュアーの皆さんのような若い世代が進学や就職のために県外に流出していることです。これまで、中心市街地の人口が減少することで商業店舗が減り、その影響でさらに人口が減少する…という悪循環を繰り返してきました。こうした悪循環になると、民間の投資も縮小傾向になってしまいます。この悪循環をなんとか断ち切らなければなりません。 対策として「集客力のある商業施設を誘致してほしい」という意見もあります。しかし、商業施設側からすれば、そもそも人通りが減少しつつある地域への進出は、採算が取れない可能性があるため消極的になりがちです。そのため、まずは人を呼び込むような起爆剤が必要です。

【中心市街地のまちづくりについて】

― 中心市街地のまちづくりについての構想をお聞かせください。

木幡市長:

中心市街地に人を呼び込む起爆剤の役割を、福島駅前の再開発に見出しています。福島駅前の再開発から、利便性が高く魅力的なまちづくりを進めて大学生などの若い世代を呼び込み、その次に商業施設を充実させることで、好循環を創りたいと考えています。 福島駅には東口と西口があり、東口周辺が福島市で最も賑わう地域です。ここに人を集め、次に商業施設を誘致し、その商業施設に惹かれた人が更に集まるという好循環を生もうとしています。そこで、この東口周辺の賑わいと交流の拠点として、市は東口再開発事業を実施する再開発組合と協力してホールとコンベンション施設を一体にした集客拠点を建設する計画を立てました。集客拠点がもっと街なかにあれば、帰りに飲食店に立ち寄るなどの回遊性が生まれ、交流が促進され、集客拠点に集まった人がまちにとってもお客さんとなります。 しかし資材高騰の影響で、ホテルなど一部の業種の出店が難しくなり、採算の観点から建設計画を見直す必要が出てきました。そこで、市民や議会の意見を踏まえ、計画全体をダウンサイジングすることを検討しています。 一方、西口についても駅前の活用方法を模索しています。大型商業店舗が撤退した跡地は民間の不動産会社が所有しているため、行政が自由に利用できるわけではありません。しかし、福島駅前の再開発において非常に重要な土地です。その重要性を踏まえ、行政としても、どのようにまちづくりを行うか?というテーマの一環として、跡地活用方法の検討を進めています。このように、東口の賑わいの核、西口の賑わいの核を、どちらも検討しながら一体的にまちづくりを考えなければいけないと思います。 加えて、中心市街地の公共施設はかなり老朽化が進んでいて、耐震性にも不安があります。しかし、ただ建て替えるだけでは、将来に重い負担を残しかねません。そこで、私の就任時に「風格ある県都を目指すまちづくり構想」と題して、中心市街地の公共施設群を再編成しながら整備を進め、さらにまちの賑わいも創出する計画を立てました。この計画においては、機能が重複する公共施設はできるだけ一つに統合し、必要な行政サービスを維持しながらも総数としては削減する、などの工夫をしています。

— 現在、中心市街地で行っている取り組みについてお聞かせください。

木幡市長:

福島駅東口の再開発の完了まで、最短でも5,6年はかかると見積もっています。しかし、現状でも既に福島駅東口の賑わいが失われる可能性が大いにあります。公共施設の再編成まで含めた壮大な構想を描きつつ、早急な対策も必要です。そこで再開発完了までの間、市民の総力を上げて賑わいを維持したいと考えています。ここ数年のコロナ禍にあっても、実は111件の新しい店舗が中心市街地に開業しました。これは他の都市と比べても驚かれる数字です。今後も店舗を呼び込めるよう支援していきます。若者に人気がある店舗を集積させるゾーンを検討したり、若者が集いやすい店舗やスペース、コワーキングスペースなどへの支援を拡大したりも考えています。また、IT産業を中心に起業家を呼び込んで都市機能集積を促進しようともしています。これだけ学生がいながら、これまで福島市は学生が集いやすいまちづくりに欠けている部分があったとも思うので、今後はそういった若者の定着を促進するようなまちづくりを目指しています。 学生の皆さんと連携した賑わい創出も重要です。福島駅東口には誰でも弾くことができるストリートピアノが設置されていますが、そこに続く階段のデザインアートは大学生に作ってもらったものです。また福島駅東口駅前通りの再開発工事の仮囲いに描かれたアート作品は、福島学院大生と福島東稜高校生が共同制作したものです。このように高校生・大学生と連携した賑わい創出も進めたいと考えています。 都市機能の集積と同じく、情報の集約も重要です。これまでは多くのイベントが秋季に開催され、春季のイベントはあまりありませんでした。そこで、4月などに開催される春季のイベントに対して、開催の前年度にあたる1月から補助金申請を受け付けるようにして、開催を促進しています。少し前まではイベント情報を様々な団体が別々に発信して分散していましたが、これも現在は専用のサイトを設けて情報発信しています。また、市の公式LINEアカウントからも、毎週、週末のイベント情報をまとめて発信しています。さらに近隣店舗間ではイベントごとに参加者に特典を付けるなど様々な連携もしています。ほかにも、ふくしまシティハーフマラソンのコースを中心市街地に設定して県外からの参加を促したり、お祭りでは予約制の有料観覧席を用意したり、メロディバス運行やシェアサイクル事業なども含めて、利便性や回遊性を向上させています。

【若者のまちづくり参画について】

— 若者向けの情報発信についてお考えをお聞かせください。

木幡市長:

現代は情報が溢れすぎていて、重要な情報を見極めて取得することに本腰を入れて取り組まねばならない時代です。よく“情報格差”という言葉を聞きますが、これは情報自体の量や質の格差だけの話ではないと思っています。それ以上に情報を活用する力の格差が大きいのです。私は、よく民間の方に困りごとを伺った際に、市から発信している情報を活用した解決方法を提示します。しかし、そもそもそのような情報があることを知らなかったと言われることが多いですし、情報自体はご存じだったとしても、その情報を適切に活用する方法をご存じない方も多いのです。 このように、情報を有効に活用する力を身につけるだけで、活動や取組が大きく前進します。情報を得ても、それをどう有効活用するか? この点を意識して情報と向き合っているかどうかで、自身の成長度合いも変わってきます。若者の皆さんには、情報の活用の仕方次第で成長に大きな違いが生まれるということを意識して、様々な活動に取り組んでいただきたいと考えています。

— 「こくりナビ」など若者の活動支援についてお聞かせください。

木幡市長:

そこで、まちづくりに参加したい若者が関連情報を取得しやすく、またそれを活用して気軽にまちづくりに参加できるように、対象を若者に限定した仕組みとして「こくりナビ」を立ち上げました。「こくりナビ」という名称は、若い方たちの意見をもとに、共創という意味を持つ、“コ・クリエイション”という言葉から着想したものです。現在の登録者総数は182名、福島大学の学生だけでも120名〜130名います。 市が「こくりナビ」で紹介している案件の多くは、イベント等の運営スタッフとしての関わりを通して、一つのまちづくりに取り組んでいただく参加形態になっています。ただ、若者の皆さんにとって、運営に関わるだけでは成長機会として十分ではないと思っているので、できる限り企画段階から関わっていただきたいのです。実績としては、今年度に紹介した案件のうち、11案件は若者が企画段階から参加しています。今後は案件全体の半数程度を、企画段階から参加可能にする予定です。 最近は、若者が自主的に事業を企画して実践し、市がサポートする形態も増えています。例えば、今のところ高校生は「こくりナビ」の対象外ですが、一部の高校生は自主的に高校生フェスティバルを企画し、福島大学の先生や学生の協力を得て開催しています。また、コロナ禍の影響で成人式をリモート実施せざるを得なかった当時20歳を迎えた皆さんに、改めて集まる機会を設けた「二十歳のチャレンジプロジェクト」も同様でした。福島市がその機会の全てをお膳立てしてしまっては、参加者の皆さんが不完全燃焼に感じるのではと思い、市からは150万円を提供するだけにとどめました。資金が足りない場合はご自分で調達いただくようお伝えしたところ、実行委員会の皆さんがクラウドファンディングや駅前での募金活動、企業協賛などで資金を調達され、企画・運営まで全て行われました。 このように、“まず自分たちでやってみること”が非常に大切で、先ほどの成人式を開催した方たちが自分たちで資金集めまで行ったことなどは、本当に素晴らしいことです。「こくりナビ」でも「ステップアップコース」として、学生グループをつくり、地域課題解決や中心市街地活性化を目的とした事業を自分たちで企画し、市の補助金を活用して事業を実施しました。当面の活動範囲は福島市内が中心ですが、今後は市外との交流事業も含めて活動の幅を広げたいと考えています。また、「こくりナビ」を利用しない場合でも、福島市内で大学生・高校生が行う自主的な学生イベントに対して「街なか若者活動促進事業補助金」として10万円を補助しています。一昨年のワールドカップの際、福島大学の学生が主催した街なか交流館でのパブリックビューイングも、この補助金制度を活用したものです。 これからも若者自身が主体性を発揮し、創造性豊かな企画を実現していただきたいと考えています。そのためには、イベント等への補助を手厚くしすぎないことが肝要です。今後も若者自身がまちづくりのために自由に活動し、様々な工夫をする苦労をも経験できる機会を提供していきます。

【これからの福島市を創る若者たちへ】

— 若者世代へのメッセージをお聞かせください。

木幡市長:

若者の皆さんは、福島市外、福島県外の様々な地域に足を運んでみてください。自分が知らない地域を経験すると、自分が住む地域の良いところ、悪いところがよく分かるものです。私も全国を渡り歩いた経験を持って、現在、この福島市の市長を務めています。皆さんも他の地域を多く経験して、自分の住む地域はもちろん、自分自身についても、良いところや悪いところ、足りないところを感じてほしいと思います。 最後に、若者の皆さんが何らかのまちづくり活動に参加したり企画したりする際、“外から人を呼び込む”ことを意識していただきたいと思います。もとより福島市の気質には内弁慶なところがあります。過去のイベントにしてもお祭りにしても、外から人を呼び込むという発想自体がありませんでしたが、現在は人を呼び込む仕掛けを始めています。県都福島では県内外から様々な人が集まることでまちが賑わい、活性化します。若者の皆さんにはぜひ、“外から人を呼び込む”ことを意識して、まちづくりに取り組んでいただきたいと思います。

(インタビュー:2024-03-15)

プロフィール

■生年月日 昭和35年10月23日 ■学歴 福島県立原町高等学校卒業 東京大学経済学部卒業 ■職歴 昭和59年 4月 自治省(現総務省)入省 平成12年 4月 香川県健康福祉部長 平成14年 4月 香川県政策部長 平成19年 7月 北海道大学公共政策大学院教授 平成24年 4月 総務省公営企業課長 平成25年 4月 岡山県副知事 平成27年 8月 消防大学校長 平成28年 7月 復興庁福島復興局長 ■略歴 平成29年12月 福島市長(現在2期目)

※プロフィールはインタビュー時のものです。

木幡市長とドットジェイピースタッフ (2024年3月15日 福島市役所にて 木幡市長とドットジェイピースタッフ)

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