ジャパンプロデューサーインタビュー
Vol.209 [首長] 池田 修 静岡県長泉町長 「ワークショップと情報発信により、町民参画のまちづくりを実現」
〝ワークショップと情報発信により、町民参画のまちづくりを実現〟
長泉町長 池田修
JAPAN PRODUCER INTERVIEW vol.209
富士山麓南東部に位置し、工業の発達する長泉町。
県下でも顕著な人口増加をみせる長泉町のまちづくりについて池田町長にお聞きしました!
< 生まれ育ったこの町の役に立ちたい >
ー町長になられた契機はどういったものがあったのでしょうか。
池田町長:
私は、いつか町長になろうという人生設計は全くしていませんでした。
役場職員は通常、多様な部署を3年程でローテーションして多くの知識を学んでいきます。しかし私の場合、最初は公民館に配属、その後電算室へと異動。そして、企画担当の部署に異動し、18年もの間町の大きなプロジェクトの設計や総合計画策定に携わってきました。
町職員としてまちづくりに関わる中で、やりがいは感じていましたが、自らが町長になる気はまだありませんでした。その後は、総務部長を経て副町長に抜擢され、まちづくりに奔走してくようになります。
前町長が脳梗塞で倒れ、別の方が町長選立候補を表明していたので、ここで終わるつもりでいました。しかし、前町長や周囲から出馬の期待の声が上がるようになります。一方、家族からは反対の声もあり、当時は板挟みの状況でした。
そもそも、役場の職員になったのは、生まれ育ったこの町で、町に対して役に立つ仕事をしたいと思ったからです。その想いに素直に、押してもらえるのならチャレンジしようかと切り替え、立候補を決意しました。町の政策に携わっていく中で、こうしたらという想いは、職員のレベルとしてはありました。次は、それらを町長のレベルとして、私はこうすると表明して今に至っています。
< 指標と町民の意識の乖離を埋めるために >
ー今の長泉町の一番の課題は何でしょうか。
池田町長:
長泉町は人口増加や育児等、様々な指標で恵まれている地域です。不動産会社が実施した昨年度の「住み心地」のランキングでは、全国5位に入りました。
一方で、町民の中でそれら自体が素晴らしいことだという情報共有がされているのか。あるいは、指標がいいからといって、自分達の日常生活が本当に満足いくものになっているのか、ということを考える時期でもありました。
行政が主体となって町民に対し、町の素晴らしさを訴え、知ってもらうというのではなく、町民自らが生活の中で気づけるようにしていきたいと考えています。そのためには、トップが変わることで町も変わるんだということに気付いてもらわねばなりません。町長が変わり、この人は何をするんだろうと興味を持ってもらい、共感してまちづくりに参画してもらうことを目指すようになります。
ー指標と実際の町民の意識の乖離を感じたのはどういった時でしたか?
池田町長:
町長就任後、ワークショップを多く実施してきました。ワークショップとなると、長が来るからあれこれ訴えようという陳情合戦になるのが多くの市町村での常なのかなと考えています。しかし、それでは効果的かつ町民主体のまちづくりは為せないと考え、ワークショップや懇談会の中であるテーマを設けます。それは、皆さんで将来の長泉町について語り合いましょうという設定で行うことでした。
その中では、「こういうものがほしい」「ここをもっとこうしてほしい」等の意見が出てきますが、既に実施している政策が多くあり、「こうしたものを実施しています」と伝えると、皆知らないのです。既に実施していたり、取り組みだしていることに対して、町民の皆様は知らないで、一般論として、「こうあったらいいよね」という意見を多く出されることを経験してきましたし、何より一番の課題として感じました。
ここで私は、自分達の情報発信不足を痛感します。例えば、公園を新設するにあたって、従来だと、「設計図はこういう風なのですが、何か意見はありますか」という形で意見を募っていました。しかし、そこには、多少の変更程度のものしか町民の参画する余地がなかったのです。
ー実際に実施した取り組みとその効果を教えてください。
池田町長:
それではそもそも、「皆さんの要望で公園を作りましょう、どんな公園がいいですか。但し、草を皆さんで抜くような、運営に関わることをしてくださいね」という前提でワークショップを行うことで、施設の目的や町の考え等を最初から理解してもらった上で一緒に作っていくことを目指しました。町民の参画する余地を大きくすることで、より主体的な参加を促せたと思います。
もう一点は、まちづくりに若い人たちの意見を取り入れられたことです。従来のワークショップでは、高齢者や既にまちづくりの活動されている方の参加が多いのですが、今回は、新幹線通学の定期代補助をしている学生対象に参加をしてもらいました。そうすると、その子たちが自分のおじいちゃんおばあちゃん年代の人達に色んな作業をさせるのは悪いので、皆で模造紙に付箋を貼ったりする作業をするのです。班ごとの発表、若い子たちが積極的に関わってくれました。そうした町の若い子たちの班の中での積極的な動きに対し、他の若者以外の方々はとても喜んでくれていました。
何かを作る際には、必ずワークショップを実施し、町民の参画を促していますが、これからは、情報共有や発信を更に加速させていかなければならないと思っています。これは行政だから、これは民間だから、ではなく、共感を得られる情報発信をしていく事で、その活動が楽しい、また自分の生活が豊かになっていることを感じられるような制度をこれからも作っていきたい。そのために、従来の補助制度をさらに拡充していく事を考えています。
ー町長の理想とする長泉町はどういったものでしょうか。
池田町長:
長泉町の一つの特徴として、豊かな自然が身近にあることが挙げられます。加えて、26.63平方キロの県下3番目の小さな町であるにも関わらず、静岡県12町のなかで一番人口が多いこともあります。また、おかげさまで長泉町は、人口増加傾向にあり、人口減少のような問題も大きくはありません。
そうなると、ハードをこれ以上変えたくないという想いがあります。当然、必要なものは作っていきますが、それよりも町民の日常生活がいかに満足できるものなのかどうかを大事にしていきたいと考えています。
安い言葉になってしまいますが、町民がキラキラ輝いている町。個人も、家族も、団体、子育てを経験した少し年配のママたちが相談をする相手のいない家族の相談役になったり、ボランティア活動が盛んで、町民自らが町を楽しみながら望む活動をお互いに手を差し伸べているような生活が様々な場面で見られるような町にしていきたい。そして、それを支える行政でありたいと、私は思っています。
様々な指標や評価の中で素晴らしい町ではなく、町民が自身の評価の中で暮らしやすい町であると思ってもらえることが必要だからです。
< 自分の生活を出発点に >
ー最後に、若者に向けてメッセージをお願いします。
池田町長:
大きく様々な夢を持って、それに向かって突っ走る事、大いに結構だと思いますし、ぜひそうして欲しいとも思います。世の中には不合理なもの、不条理なものが多くあり、思い通りに行くことも少ないでしょう。それでも、そうした中で理想論を追うことは大いに結構だし、それがなくてはいけないとも思います。
しかし、もう一つ。自分の生活というものを出発点にしてほしいとも思っています。活動のための活動で、家へ帰ったら自分の生活は無茶苦茶だったとなると、それは果たしてどうなのだろうかという疑問が生じます。何事も、自分の生活ありきです。そこを基準にして、どこを目指していくべきなのかということも頭の隅に於いておいてもらえたらと思います。
(インタビュー:2022-02-25)
プロフィール
■生年月日 昭和32年5月26日
■略歴
昭和55年 長泉町職員
平成25年 長泉町副町長
平成29年 長泉町長就任
※プロフィールはインタビュー時のものです。
2022年2月25日 zoomにて
(左:池田町長 右:ドットジェイピースタッフ)